2019年6月12日水曜日

ゲーム音楽レビュー本/カタログ本の25年史~『ゲーム音楽ディスクガイド』に至るまで

2019年5月31日、私hally監修の『ゲーム音楽ディスクガイド』が発売となりました。ゲーム音楽がレコード化されるようになってから既に40年が経過していますが、それが一般的な音楽評論の俎上に上る機会は、いまだに多くありません。そんな状況に一石を投じるべく、DJフクタケ氏、糸田屯氏、井上尚昭氏のお力をお借りして、現時点で考えうる最強のディスクガイド本を組んでみようと試みたのがこの本になります。

ありがたいことに現在のところ大変なご高評をいただいておりますが、ゲーム音楽のレビュー本はむろん本書が最初ではありません。過去に登場した数々の類書を、以下にざざっと並べてみました。雑誌付録や無料頒布のカタログを除けば、おおよそこんなところで全部じゃないかと思います。今回の『ゲーム音楽ディスクガイド』は、こうした書籍たちの紡いできた歴史の流れの上にあるものなのです。



上段中央『ゲームミュージック大辞典』(舟野治樹/松川純一郎, JICC出版局, 1993/02)が最古のもの。前半はゲーム音楽の作り方や制作事情に焦点を当て、後半がディスクガイド&カタログとなっています。当時としては珍しく音楽的視点に立ったレビューがちらほら見受けられますが、残念ながら筆致がそれに追いついておらず、レビューというよりは感想文に近い感触。とはいえゲーム音楽論なき時代の評論としては、このあたりが精一杯だったかなという気もします。

次に古いのが上段左『ゲーム音楽』(戸塚義一監修, エクシードプレス, 1999/5/1)。ゲーム音楽を時代性で整理する切り口は当時それなりに斬新でした(レビュー内容にはあまり反映されていませんが)。アレンジ盤等は対象外ながら、サントラ化されていない作品も多数取り上げています。レビューは「いかにゲームと一体化しているか」とか「音源の使いこなしはどうか」の話が中心。ネット時代のスタンダードな語り口が、もうこの時代に萌芽しつつあったのだなという印象を受けます。

中央左『そうだ、ゲームミュージックを聴こう!』(G‐trance/罰帝監修, マイクロマガジン, 2002/09)は、前半がゲーム音楽家インタビュー、後半がディスクカタログという内容で、レビュー要素は僅かしかありません。でも先日監修のG‐trance氏と久々にお会いしたさい「実はもともと今回の『ゲーム音楽ディスクガイド』のようなものを企画していた」というお話を伺いました。もしこんな企画が17年前に通っていたら、ゲーム音楽評論の風通しはだいぶ違ったものになっていたかもしれません。ちなみにこれ、僕が初めてまとまった文章を商業で書かせていただいた一冊でもあります(冒頭の音源チップ解説パート)。

左下『Falcom Music Chronicle』(キャラアニ,  2013/6/28)は、日本ファルコム公式の音楽総覧。ひとつのゲーム会社の音楽史を正式な監修のもとにまとめた本というのは、いまのところ本書くらいしかありません。筆者無記名ですが、実はレビューやインタビューの9割以上を僕が書かせていただきました。論評の姿勢は基本的に今回の『ゲーム音楽ディスクガイド』と同じ。評価は読者に委ねますが、こうした形で正史を紡ぐことは、ゲーム音楽を後世に語り継いでいくために欠かせない行為だと思っています。他社さんにも是非同様の企画をやっていただきたいですね。

上段右『ゲーム音楽大全』(宝島社, 2016/5/21)、中段右『ゲーム音楽大全Revolution』は、インタビューと読み物を中心にレトロゲーム音楽とその周辺文化の現状を、分かりやすくまとめた二冊。入門者にも中級者以上にも読み応えのある仕上がりです。レビュー中心の本ではないけど、各巻の巻末1/3くらいはコレクターKUBOKEN氏がファミコン全カセットの音楽について一言レビューしていくコーナーになっています。ちなみに前者には僕のインタビューが載っています。

右下の『ゲームミュージック年鑑 1978~1989』(松原圭吾, 16SHOTS BOOKS, 2016/12/29)は同人誌ですが、文句なく最強のカタログ本ということで敢えて一緒に並べました。純粋なカタログなのでレビュー要素はありません。松原氏は『ゲームミュージック総覧 任天堂ハード編 1983~2018』『ゲームミュージック総覧 アーケード編 1977~2017』も続刊しておられます。


……ところで冒頭でさらっと流してしまいましたが「雑誌付録や無料頒布のカタログ」も実は、ゲーム音楽本の歴史においては無視できない存在です。特に『Beep』誌に付属していたゲーム・ユートピア・プロジェクト監修「GAME MUSIC & VIDEO CATALOG」(1988)は、レコード産業がゲームミュージックというジャンルを定着させるために評論まで自前で用意した「本邦初の、ゲームミュージック&ビデオ総カタログ」として、注目に値します。このあたりの詳細はまたいずれ。

2018年3月25日日曜日

Excluded sound device on EDSAC

Maurice Wilkes' 'The EDSAC Computer' appeared in Joint AIEE-IRE Computer Conference (Dec.10~12 1951) reveals that EDSAC, the world's second stored-program based digital computer, also had a sound device for alarming accumulator's overflow.
Another checking device included in the EDSAC in its early days was an alarm which sounded when the capacity of the accumulator was exceeded. This, however, turned out to be more trouble than it was worth, since there are a good many occasions, particularly when orders are being modified, when the programmer wishes to perform some operation which will necessarily involve an overflow in the accumulator. Another disadvantage was that the alarm tended to get switched off during testing operations, and not switched on again, so that it failed to serve the purpose for which it was intended. In consequence of these objections the device was removed from the machine. (p.80)
I think it was the first case in the history of computers that people decided to exclude the sound feature. His paper proves it might be painful in some cases on very early computers. Comparing to EDSAC, now we can regard BINAC, Ferranti Mark I and CISRAC, as the successful cases for implementing it effectively.


2018年1月13日土曜日

【翻訳】ラップ・ミーツ・テクノ、エレクトロ小史を添えて

現代チップチューンの源流のひとつに「エレクトロ」という音楽ジャンルがあることを、拙著『チップチューンのすべて』において示しました。しかしながらエレクトロの歴史は、ここ日本ではいまひとつきちんと整理されていないというか、ジャンルの成り立ちをきちんと解説してくれるようなテキストは、少なくともWEB上には皆目見当たらないという現状があります。

もちろん英語圏には、優れたリファレンスとなりうるテキストがいくつか存在しています。以下に僕が勝手訳した「ラップ・ミーツ・テクノ、エレクトロ小史を添えて」も、そのひとつと言えるでしょう。これは現代チップチューンの成立とも関連する、1994~1995年の第一次エレクトロ・リバイバルの中で書かれたもので、当時の空気をまざまざと感じさせてくれると同時に、1984~1995年という「エレクトロ史の空白期」をうまく埋めてくれる貴重な文献でもあります。

もっともエレクトロのルーツに関してはだいぶ端折り気味です。ブルース・ハークもWarp 9もここには登場しません。またいくつか細かな間違いも散見されますが、なんにせよ貴重なエレクトロ史ガイドであることに変わりはありません。

なお文中で言及されている楽曲には、Youtubeのリンクを加えました。ご参考になりましたら幸いです。

2017年9月23日土曜日

アナログレコード・リバイバルについての補足

 電ファミニコゲーマーにて『「CDより売れてる」いま海外で復権するアナログレコード市場を徹底分析。なぜゲーム音楽がわざわざレコードで愛されてるのか?【海外キーマンに聞く】』という記事を書かせていただいたのですが、実はこれの執筆にあたってアナログレコード市場全体の分析も行っていました。若年層を巻き込んだ、ターンテーブルいらずの市場は、そもそもどうやって生まれたのでしょうか。そのあたりをここで補足しておきたいと思います。

……したがいまして、今回はチップチューンやゲーム音楽とは直接関係ないお話になります。あしからず。

2017年5月22日月曜日

AMP analysis #1 part 2 (JP)

トラッカー人口の総数は1位ドイツ、2位スウェーデン、3位フィンランド……という順であることを、AMP analysis #1において示しました。しかし人口比率で見た場合、トラッカー音楽のもっとも盛んな国の実態は、また変わってきます。下記のグラフはそれを示したものです。



これを見ると、フィンランドが群を抜いてトラッカー使用の盛んな国であることが分かります。人口10万人あたり約27人がトラッカー・ミュージシャンである計算になります。次いでスウェーデンとノルウェーが同約15人。

この構図は北欧メタルの人口比率を想起させます。フィンランドは世界有数のメタル大国でもあるわけですが、人口10万人あたりのバンド数は53.2組。ざっとその半分くらいトラッカー文化が浸透しているといえそうですね。もちろん両者にさほど接点はないでしょうから、フィンランドはメタルやトラッカーだけでなく、そもそも音楽活動そのものが突出して盛んな国なのかもしれません。

トラッカー人口全体では1位だったドイツが、人口比でみた場合そこまで突出した存在でもないという事実も、なかなか興味深いところです。人口あたりの盛況ぶりでいえば北欧以外の国々とさほど変わりません(約2.2人/10万人)。意外な感じではないでしょうか。

13位(チェコ)以下の国々は1.0人/10万人を割り込んでいます。総数でいえば5位につけているアメリカが、人口比率で見た場合は18位(約0.4人/10万人)まで転落しているのが目を惹きます。マイノリティが馬鹿にできない人数になるというのは、さすがに大国といったところでしょうか。

ちなみに日本はといいますと、正確な数値の測定は難しいですが、10万人あたり0.08人くらいになると思われます。こうやって数字にしてみると、そりゃトラッカー使いはレアキャラだよなと思い知らされますね。

2017年5月11日木曜日

『チップチューンのすべて』正誤表

初の自著『チップチューンのすべて』(誠文堂新光社)が、おかげさまで本日ついに発売となりました。最初の発売予定日から1年以上も遅れてしまい、多くの皆様にご迷惑をおかけしてしまいましたが、335ページという紙幅の許す限りにおいて、歴史の転換点となった事象をあらかた網羅できたはずだと信じております。ただひとつ心残りなのは、内容を詰め込むことに没頭するあまり、校正時間をいたずらに切り詰めてしまったことです。おかげで多くの誤字脱字を残してしまいました。たいへんご不便をおかけいたしますが、ここに正誤表をご用意いたしましたので、なにとぞご容赦のほど、よろしくお願い申し上げます。(Special Thanks: 加山。, Do., Bun, UME-3, トマ, たけがみりう [敬称略])

2017年5月7日日曜日

AMP Analysis #1 (EN)

Everybody knows the tracker population mostly comes from Europe. But how many people from which country are there? I think obvious statistic has never been counted even though Amiga Music Preservation (AMP) provided nice framework for that. So I collected and sorted more than 15000 people registered there. Here're the results:  


Data taken from AMP's database on April 30th 2017. I summarized countries having less than 100 trackers in 'others' group. The below is the countries included in the group (country/people): 

Austria 76
Russia 72
Turkey 51
Slovakia 43
South Africa 34
Israel 34
Yugoslavia (ex.) 32
Scotland 30
Japan 28
Greece 27
Croatia 26
New Zealand 25
Brazil 25
Serbia 22
Portugal 22
Slovenia 19
Iceland 18
Ireland 17
Argentina 14
Ukraine 12
Estonia 11
Northern Ireland 8
Belarus 8
Singapore 7
Romania 7
Luxembourg 7
Qubec 5
Wales 4
Taiwan 4
Mexico 4
Malta 4
Bulgaria 4
Martinique 3
Venezuela 2
Lichtenstein 2
Jordan 2
Isle of Wight 2
Dominica Republic 2
Uruguay 1
New Caledonia 1
Macedonia 1
Isle of Man 1
Costa Rica 1
Chile 1

Hm, well, numbers from fewer countries may not be  close to the actual state. For example, AMP shows only 28 Japanese people. However, aka_obi's jp-mod-music includes 84 artists. I'd never say AMP lacks reliability because language barrier is always very high around Japanese people. I'd say AMP is the union catalog of 'trackers visible from European/American world'. Absence of most African/Middle-East/Asian countries in the data element also bears out AMP's point of view.

ゲーム音楽レビュー本/カタログ本の25年史~『ゲーム音楽ディスクガイド』に至るまで

2019年5月31日、私hally監修の 『ゲーム音楽ディスクガイド』 が発売となりました。ゲーム音楽がレコード化されるようになってから既に40年が経過していますが、それが一般的な音楽評論の俎上に上る機会は、いまだに多くありません。そんな状況に一石を投じるべく、 DJフクタケ 氏...